法人向け医療保険は、経営者の保障や福利厚生の充実などに便利なサービスです。事業リスクへの備えとしても有効なため、活用を検討する企業も少なくありません。
しかし医療保険をはじめとする法人保険は、2019年の税制改正によって規定が変更されたことから、以下のような疑問をお持ちの方もいるでしょう。
- 法人向け医療保険で節税はできる?
- 法人向け医療保険のメリットは?
- 法人向け医療保険はどんなシーンで活用する?
そこで本記事では、法人向け医療保険の節税効果について詳しく解説します。活用するメリットや注意点も併せて紹介するので、法人向け医療保険の理解を深め、より有効的に活用してみてください。
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目次
法人向け医療保険は運用次第で一定の節税効果が見込める
法人保険は、契約者が法人となる保険商品です。法人向けの医療保険も豊富に提供されており、経営者の保障や従業員の福利厚生を充実させるために活用されています。
そんな法人向け医療保険は、運用次第で一定の節税効果が見込めます。支払った保険料は経費として計上できるため、法人税を減らしつつ万が一のときに備えることが可能です。
注意点
ただし法人向け保険は2019年の税制改正により、特定の種類に関して経費(損金)の計上ルールが変更されました。
医療保険は第三分野保険に分類される種類で、税制改正の対象です。この税制改正では計上ルールに制限が設けられ、節税効果が少なくなりました。
節税を図る場合は、新たな計上ルールを把握しておく必要があります。
法人向け医療保険とは
法人向け医療保険を利用する際は、はじめに基本的な概要を理解しておくと、より有効的に活用することが可能です。
契約者 | 法人 |
---|---|
被保険者 | 経営者または役員
従業員 |
保険金の受取人 | 法人
経営者または役員(その家族を含む) 従業員(その家族を含む) |
法人向け医療保険は、目的や運用方法に応じて被保険者が変わります。例えば福利厚生として利用する場合の被保険者は従業員です。
また、受取人も運用方法によって変わります。従業員に万が一のことが発生した際の弔慰金として利用するのであれば、法人や従業員の家族が受取人となるでしょう。
編集部
定期タイプと終身タイプに分けられる
法人向け医療保険は、定期タイプと終身タイプに分けられます。定期タイプは、保険期間に定めがあるタイプです。一般的には期間中に対象となる事由が発生するか、満期を迎えたときに保険金が支払われます。
一方で終身タイプは、保障が一生涯続くタイプです。保険期間に定めがなく、対象となる事由が発生したときに保険金や給付金が支払われます。
編集部
掛け捨て型は満期や解約で一切の返金がない分、保険料が安めです。対して貯蓄型は保険料が比較的高めではあるものの、満期や解約時に解約返戻金などの返金が受けられます。
支払いは「全期(終身)」「短期」の2種類
法人向け医療保険には、「全期(終身)」「短期」の2種類の払込期間が存在します。
保険を継続させるために保険料を納める期間です。保障が受けられる期間を表す「保険期間」とは異なります。
編集部
なお、全期(終身)払いは生涯にわたって保険料を支払っていくタイプです。支払期間が長いものの1回あたりの保険料は安めの傾向で、支払い期間中に保険料は変動しません。
対して短期払いは、一括または定められた期間で保険料を支払うタイプです。払込期間が短いため将来的な負担は少ないものの、1回あたりの保険料は高めの傾向にあります。
編集部
有効的に活用するためには基本的な概要を理解し、目的に合ったものを選びましょう。
法人向け医療保険を活用した節税の仕組み
法人向け医療保険を活用した節税は、経費(損金)を計上することで課税所得を減らし、法人税を少なくするのが基本的な仕組みです。
ただし解約返戻金や保険金は、原則として法人税の対象となる点に注意が必要です。結局のところ法人税が課せられることになるので、単に加入するだけでは節税効果を見込めません。
加えて税制改正で損金の計上ルールが変更されたことにより、法人保険の節税効果は以前と比べて少なくなりました。
編集部
法人向け医療保険の節税でおさえておきたいポイント
法人向け医療保険で節税を図る際は、以下のポイントをおさえておきましょう。
- 掛け捨てタイプの保険は全額損金算入が可能
- 終身タイプ短期払いは年間保険料額30万円以下で全額損金算入できる
- 受取人が個人(経営者・従業員)の場合は非課税
- 受取人が法人の場合は雑収入となり課税対象となる
掛け捨てタイプの保険は全額損金算入が可能
掛け捨てタイプの法人向け医療保険は税制改正の対象とならず、保険料の全額を損金として算入可能です。
これまで保険の損金の計上ルールは種類ごとに規定されていましたが、2019年の税制改正にて「最高解約返戻率」に着目した規定に変更されました。
ポイント
- 新たな計上ルールの対象となるのは、解約返戻金がある保険商品。
- 掛け捨てタイプは解約返戻金がないため、新たな計上ルールの影響を受けない。
保険金は全額支出となりますが、法人税を抑えつつ万が一の事態に備えることが可能です。保障内容・保険料・法人税のバランスを調整すれば、総合的な節税効果が見込めるでしょう。
終身タイプ短期払いは年間保険料額30万円以下で全額損金算入できる
終身タイプで短期払いの法人向け医療保険は、年間の保険料額が30万円以下であれば保険料の全額を損金として計上可能です。計上できる損金が多いほど課税所得は減るので、法人税を少なくできます。
なお、税制改正では特例措置が設けられており、以下に該当する保険商品は規制が適用されません。
税制改正の特例措置(新ルールの対象外保険)
- 最高解約返戻率が50%以下の保険
- 保険期間3年未満の保険
- 最高解約返戻率70%かつ、年間保険料が30万円以下の保険
定期保険や第三分野保険であっても、上記に該当する場合は従来の規定で保険料を損金算入できます。
受取人が個人(経営者・従業員)のときは非課税
医療保険の受取人が経営者や従業員といった個人の場合、法人が保険金を受け取るわけではないため法人税は課せられません。また受け取った側に関しても、所得税や贈与税が非課税となります。
これは所得税法にて「身体の障害に起因して支払いを受けるものは非課税」という定めがあるためです(所得税法第9条、同施行令30条)。医療費をはじめ、入院給付金や手術給付金などは非課税扱いとなります。
注意点
- ただし非課税となるのは、病気やケガなどに起因する支払いのみです。
- 死亡給付金や生存給付金などはこれに該当しないため、課税対象となります。
また、非課税で受け取った給付金が相続財産として遺族に相続される場合は、相続税の対象となることがあるので注意しましょう。
受取人が法人の場合は雑収入となり課税対象となる
医療保険の受取人が法人の場合は雑収入となり、法人税の課税対象です。受け取った給付金は雑収入として計上し、益金に算入します。
なお、法人が受け取った給付金を見舞金や弔慰金として個人へ渡す際は、福利厚生費(経費)として計上が可能です。
注意点
- 経費として認められるのは、「社会通念上に相当する」と認められる金額の範囲。
- その範囲を超える分については従業員の給与として扱われ、所得税の対象となる。
ちなみに社会通念上相当の金額としては、過去の判例により5万円までが目安と考えられています。加えて見舞金を福利厚生として利用するには、「慶弔見舞金給付」のような規定の整備が必要です。
編集部
法人向け医療保険を活用するメリット
法人向け医療保険を活用することで以下のようなメリットが得られます。
- 福利厚生を充実させられる
- 経営者や従業員の退職金代わりに利用できる
- 事業の保障として活用できる
福利厚生を充実させられる
法人向け医療保険は福利厚生を充実させるのに有効であり、主に在職中の病気やケガの保障として活用できます。
福利厚生は「法定福利」と「法定外福利」に区分されており、法人向け医療保険は法定外福利厚生に該当するものです。ただし福利厚生として認められるには、以下のような要件を満たす必要があります。
福利厚生として認められるための要件
- すべての従業員を対象としていること
- 従業員間で格差が生じる場合は合理的な理由があること など
福利厚生は、すべての従業員が公平に利用できることが前提です。不合理な条件があったり、従業員間で理不尽な格差があると福利厚生としてみなされず、従業員への給与として扱われます。
福利厚生は、労働者が企業に求める項目において優先順位が高いです。魅力的な福利厚生を提供できれば他社との差別化が図れ、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
経営者や従業員の退職金代わりに利用できる
終身タイプで短期払いの法人向け医療保険は、経営者や従業員の退職金代わりに利用可能です。法人が支払った医療保険を退職にあわせて名義変更することにより、退職者は負担なく一生涯の医療保障を手に入れられます。
日本は「人生100年時代」と呼ばれるほど平均寿命が高くなっており、長い老後人生を送るうえで老後の医療費を不安視する方も少なくありません。また、身体に不調が生じた際は介護費もかかります。
編集部
保障内容は保険商品によって異なるため、より充実した商品を選ぶことで他社との差別化を図れます。
事業の保障として活用できる
法人向け医療保険は、事業資金として活用できるのもメリットです。給付金や解約返戻金は、事業で資金が必要になったときの一時的な保障として使えます。
中小企業は経営者の影響力が大きいケースが多く、引退によってさまざまな影響が予想されます。例えば事業承継を実施する場合、譲渡した株式に対して譲渡所得税や贈与税が課せられます。
また解約返戻金は、事業拡大における先行投資の資金としても活用できます。医療保険は、このような事業リスクに対する備えとしても有効です。
法人向け医療保険のデメリット
法人向け医療保険を契約する際は、以下のデメリットを理解しておきましょう。
- 保険料の負担が大きいとキャッシュフローが悪化する
- 解約返戻金があるものは解約タイミングによって受取額が少なくなる
一般的に医療保険は保障内容が充実するにつれ、保険料も高くなります。充実させるに越したことはありませんが、保険料支払いの負担が大きすぎるとキャッシュフローを悪化させる可能性があるため注意が必要です。
また解約返戻金のある医療保険は、解約のタイミングに注意しましょう。解約返戻金は保険期間開始から徐々に返戻率が上昇し、ピークを迎えると下がっていくのが一般的です。
編集部
法人向け医療保険を活用するときの注意点
法人向け医療保険を活用する際は、以下の注意点を把握しておきましょう。
- 税制改正に沿った経理処理が必要
- 新ルールが適用されるのは2019年10月8日以降の契約分から
- 福利厚生として認められない場合は受取側に所得税が発生する
税制改正に沿った経理処理が必要
2019年の税制改正で対象となったのは、保険期間3年以上の定期保険と医療保険をはじめとする第三分野保険です。
新たな規定では以下のように最高解約返戻率に応じて、損金算入できる割合が定められています。
最高解約返戻金 | 資産計上期間 | 資産計上額と損金算入額 | 取崩期間 |
---|---|---|---|
50%以下 | 条件なしで全額損金算入が可能 | ||
50~70%以下 | 保険期間が4割経過するまで | 資産計上額:40%
損益算入額:60% |
保険期間75%経過後から保険期間が終了するまで |
70~85%以下 | 保険期間が4割経過するまで | 資産計上額:60%
損益算入額:40% |
保険期間75%経過後から保険期間が終了するまで |
85%超 | 保険期間開始から最高解約返戻率に達する期間まで | ・保険期間開始から10年未満
資産計上額:当期分支払保険料×最高解約返戻率×90% 損益算入額:上記の残額 |
解約返戻金が最高額に達したあとから保険期間終了まで |
・保険期間開始から10年以上経過
資産計上額:当期分支払保険料×最高解約返戻率×70% 損益算入額:上記の残額 |
損金算入できる割合は、保険の経過期間によって変動します。最高解約返戻率が50~75%の場合、保険期間が4割経過すると保険料の全額を損金算入することが可能です。
編集部
このように税制改正後の法人保険は、会計処理がやや複雑です。会計処理は税金の計算にも影響を及ぼすため、会計士をはじめとする専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
新ルールが適用されるのは2019年10月8日以降の契約分から
法人向け医療保険に税制改正の新ルールが適用されるのは、2019年10月8日以降の契約分からです。この日以前に契約した医療保険については、これまで通り旧規定で損金算入ができます。
ちなみに医療保険と同じく税制改正の対象となった定期保険は、2019年7月8日以降の契約分から適用されます。医療保険とは適用の日付が異なるため、混同しないよう注意しましょう。
福利厚生として認められない場合は受取側に所得税が発生する
福利厚生とみなされない給付金や社会通念上相当を超えた見舞金は、給与として扱われ所得税の対象になります。従業員の納税負担が増えると、モチベーションの低下や離職につながる可能性もあるため注意が必要です。
編集部
法人向け医療保険選びで失敗しないためのコツ
法人向け医療保険を選ぶ際は、失敗しないためにも以下のポイントをおさえておきましょう。
- 目的を明確にする
- 自社に適した運用計画を立てる
- 候補となる商品を比較検討する
- 自社のみでの判断が難しい場合は専門家に相談する
目的を明確にする
医療保険を利用する際は、はじめに加入の目的を明確にすることが大切です。法人保険にはさまざまな種類があり、それぞれ適したシーンが異なりますが、医療保険は万が一の備えや福利厚生を充実させるのに向いています。
経営者の退職金や事業資金の確保を重視する場合は、定期保険や養老保険などが向いている場合もあるでしょう。また、事業リスクへの備えとしては火災保険をはじめとする損害保険も選択肢となります。
自社に適した運用計画を立てる
法人保険をより有効活用するには、自社に適した運用計画を立てるのがポイントです。運用計画によっても選ぶべき保険商品が異なります。
例えば解約返戻金のある保険を利用する場合、出口戦略を考えておかなければなりません。使い道を明確に決めておかないと無駄に消費してしまい、有効活用できなくなる恐れがあります。
候補となる商品を比較検討する
医療保険選びで失敗しないためには、複数の保険商品を比較検討することが大切です。同種の保険を比較することで、自社に適した保険を見極めやすくなります。
保険商品を選ぶ際は、保障内容と保険料のバランスを考慮しなければなりません。しかし、1つの保険しかリサーチしていないと判断がしづらく、割高な保険料の商品を選ぶ可能性があります。
編集部
保険を比較する際は、比較サービスやサイトを利用すると効率よく見積もりが取れるので便利です。
自社のみでの判断が難しい場合は専門家に相談する
法人保険を活用するときは、ファイナンシャルプランナーをはじめとした専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
また、会計処理については会計士からのサポートを受けることで適切に処理できます。
まとめ|法人向け医療保険は運用の仕方により一定の節税効果に期待できる
法人向け医療保険は、選ぶ商品や運用次第で一定の節税効果が見込めます。ただし単に加入するだけでは節税効果が薄いため、広い視野で綿密なタックスプランニングを行うことが大切です。
そのほか法人向け医療保険は経営者の保障をはじめ、事業リスクに対する備えとしても有効。福利厚生を充実させる目的でも活用でき、求職者へのアピールや企業のイメージアップにもつながります。
編集部