法人向け生命保険は、企業を取り巻くリスクへの備えとして役立つ保険商品です。企業によっては経営者や役員の保障をはじめ、福利厚生の充実や節税を目的に活用されることもあります。
しかし、法人保険は2019年の税制改正によって損金の計上ルールが変わったため、以下のような疑問をもっている方もいるでしょう。
- 法人向け生命保険で節税は可能?
- 法人向け生命保険のメリットは?
- 法人向け生命保険にはどんな種類がある?
本記事ではこのような方に向け、法人向け生命保険で節税対策ができるのかを分かりやすく解説します。また、節税以外にも法人向け生命保険のメリットや注意点を紹介しているので、利用を検討する際の参考にしてみてください。
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目次
法人向け生命保険は節税になるのか?
法人向けの生命保険は、契約者が法人となる保険商品です。事業に役立つ保障内容となっており、企業では節税や経営者の保障を目的によく活用されています。
ただ法人向けの生命保険は、あまり節税効果が見込めません。ここでは節税の基本的な仕組みと、節税効果が見込めない理由について詳しくみていきましょう。
節税の基本的な仕組み
法人向け保険商品が節税につながるといわれるのは、保険料を経費(損金)として計上できるためです。経費を多く計上できれば課税対象となる所得を減らせるので、課せられる法人税が少なくなります。
法人税は、1年間で企業が得た所得をもとに計算される税金です。課税の対象となる所得は課税所得と呼ばれ、原則として23.2%の税率が課せられます。ただ、事業で得た利益がそのまま課税所得になるわけではありません。
編集部
保険商品を利用する場合、保険料をできるだけ多く計上できれば課税所得が減り、法人税も少なくなるということです。
生命保険の利用での節税はあまり見込めない
生命保険は「節税になる」という見方がある一方で、「節税効果はない」という意見もあります。生命保険が節税にならないといわれる主な理由は以下の2つです。
- 解約返戻金は雑収入となり法人税の対象
- 税制改正により損金算入できる金額が少なくなった
理由1:解約返戻金は雑収入となり法人税の対象
生命保険に節税効果がないといわれる理由は、解約返戻金が法人税の対象となるためです。解約返戻金とは保険期間中に契約を解除した際、払い戻されるお金のこと。
編集部
法人保険は保険料を経費で計上して税金の減額を図りつつ、解約返戻金でまとまった資金を手に入れられるのが魅力と考えられています。
しかし解約返戻金は雑収入に該当するもので、法人税の課税対象です。法人税の課税時期を先延ばしにしているだけとなるため、単に法人保険に加入するだけでは節税効果は薄いといえます。
理由2:税制改正により損金算入できる金額が少なくなった
税制改正により損金算入(経費計上)できる金額が少なくなったことも、法人保険での節税効果が見込めないといわれる理由です。
法人保険は2019年の税制改正により、一部の保険商品における損金の計上ルールが変更されました。新ルールでは損金として計上できる範囲に制限が設けられ、経費として計上できる金額が少なくなっています。
2019年の税制改正による法人向け生命保険への影響
つぎに2019年の税制改正による法人向け生命保険への影響について、詳しくみていきましょう。
- 損金の計上ルールが変更された
- 保険業界では多くの節税向け保険商品の販売が停止された
損金の計上ルールが変更された
2019年の税制改正で影響を受けたのは、保険期間が3年以上の定期保険と第三分野保険です。
最高解約返戻金 | 資産計上期間 | 資産計上額と損金算入額 | 取崩期間 | ||
---|---|---|---|---|---|
資産計上額 | 損益算入額 | ||||
50%以下 | 条件なしで全額損金算入が可能 | ||||
50~70%以下 | 保険期間が4割経過するまで | 40% | 60% | 保険期間75%経過後から期間が終了するまで | |
70~85%以下 | 60% | 40% | |||
85%超 | 保険期間開始から最高解約返戻率に達する期間まで | ・保険期間開始から10年未満 | 解約返戻金が最高額に達したあとから保険期間終了まで | ||
当期分支払保険料×最高解約返戻率×90% | 左記の残額 | ||||
・保険期間開始から10年以上経過 | |||||
当期分支払保険料×最高解約返戻率×70% | 左記の残額 |
これまで損金の計上ルールは保険商品ごとに定められていましたが、最高解約返戻金を基準とする規定に変更されました。最高解約返戻金が高い保険商品ほど、損金算入できる割合が少なくなります。
なお、税制改正の新ルールには特例措置が講じられており、以下に該当する保険商品は適用外です。
- 最高解約返戻率が50%以下のもの
- 保険期間3年未満のもの
- 最高解約返戻率70%かつ年間保険料が30万円以下のもの
また今回の新ルールは、生命保険のひとつである養老保険には適用されません。上記に該当する場合や養老保険であれば、従来の規定で保険料の損金算入ができます。
保険業界では多くの節税向け保険商品の販売が停止された
2019年の税制改正は同年2月に発表されたことから「バレンタインショック」と呼ばれ、保険業界に大きな衝撃を与えました。
主に販売停止となったのは、損金算入できる割合が多かった「全損(全額損金)・半損(半額損金)タイプ」と呼ばれるものです。
節税効果の高い商品が減ったことから、節税目的で保険を活用しにくい状況になりました。
法人向け生命保険に加入するメリット
法人向け生命保険に加入すると、主に以下のようなメリットが得られます。
- 経営リスクに備えることができる
- 経営者や役員の保障を手厚くできる
- 福利厚生を充実させられる
経営リスクに備えることができる
法人向け生命保険は、経営リスクに備えられるのがメリットです。保険に加入しておけばリスクが生じた際、保険金や解約返戻金で必要な事業資金を賄えます。
企業は、事業を展開するうえでさまざまなリスクを抱えています。
事業展開するうえでの経営リスク
- 売上減少や倒産といった事業継続のリスク
- 事業の承継や相続による影響
- 自然災害やサイバー攻撃など突発的な損害のリスク
- 事業拡大や新規事業立ち上げによる一時的な資金不足
資金調達は、経営するうえで避けては通れない課題です。金融機関からの融資や公的な補助金制度がよく活用されますが、必ずしも利用できるとは限りません。
そこで、解約返戻金のある貯蓄タイプの法人向け生命保険に加入しておけば、さまざまな経営リスクに備えることができます。
経営者や役員の保障を手厚くできる
経営者や役員の保障を手厚くできるのも、法人向け生命保険の魅力です。
保険金や解約返戻金は、退職金代わりとして活用できます。役員の退職金(役員退職金)は特別損失として計上されるもので、企業の収益を圧迫する要因のひとつです。
福利厚生を充実させられる
法人向け生命保険は、福利厚生を充実させるのにも有効です。従業員の退職金や万が一の保障など、さまざまな用途で活用できます。
ただし福利厚生として生命保険を利用するには、以下のような要件を満たさなければなりません。
生命保険を利用する際の要件
- 全社員を対象としていること
- 保険金額に格差が生じる際は合理的な理由があること
- 従業員の定年まで適用されること など
生命保険が福利厚生と認められるには、「全従業員に対して公平であること(普遍性)」が求められます。正社員と非正規で待遇を分けたり、不条理な加入条件を設定すると福利厚生として認められません。
また、福利厚生として提供される保険商品は保険会社ごとに利用要件を設定していることがあるため、事前に確認しておきましょう。
法人向け生命保険を活用するときの注意点
法人向け生命保険を活用するときは、以下の点に注意が必要です。
- 保険料の支払負担が大きいとキャッシュフローが悪化する
- 解約のタイミングによって受け取れる解約返戻金が少なくなる
- 会計処理には税制改正に関する知識が必要となる
保険料の支払負担が大きいとキャッシュフローが悪化する
法人向け生命保険を活用するときは、キャッシュフローの悪化に注意しましょう。保険料支払いの負担が大きすぎると資金繰りが悪くなり、資金不足に陥る恐れがあります。
法人向け生命保険は保障内容が充実するほど、保険料が高くなるのが一般的です。
編集部
もちろん保障内容は充実しているほうが良いですが、すべての保障が自社にとって有効とは限りません。
必要ないものは省くことで保険料を抑えられるので、余分な保険料を支払わないためにも、まずは保険に加入する目的や必要となるものを明確に洗い出しましょう。
解約のタイミングによって受け取れる解約返戻金が少なくなる
解約返戻金のある生命保険は、解約のタイミングに注意が必要です。解約の時期によっては、受け取れる解約返戻金が少なくなる場合があります。
解約返戻金は、保険加入期間に応じて変動するのが一般的です。解約返戻率は保険期間開始から少しずつ上昇していき、ピークを迎えたあとは下がっていきます。
注意点
契約して間もない時期や満期直前などに解約すると、わずかな解約返戻金しか受け取れない可能性があるので注意しましょう。
解約返戻金に関する規定は、保険商品によって異なります。保険商品によっては満期で解約返戻金がゼロになるものもあるので、あらかじめ詳細を確認しておくことが大切です。
また、受け取り時期がすでに定まっている場合は、設定した時期に解約返戻率がピークを迎える商品を選ぶと良いでしょう。
会計処理には税制改正に関する知識が必要となる
法人向け生命保険を利用するときは、会計処理に注意が必要です。新ルールでは最高解約返戻率だけでなく、保険期間の経過に応じても損金の計上が異なります。
たとえば最高解約返戻率が50~85%以下の場合、保険期間が4割経過すると保険料の全額を損金算入することが可能です。
編集部
このように法人向け生命保険の会計処理は、税制改正によって複雑になりました。会計処理は税金の計算にも影響を及ぼすため、新ルールをしっかりと理解し、適切に処理しなければなりません。
自社のみでの対応が難しいと感じるときは、会計士や税理士などの専門家に相談しながら進めましょう。
法人向け生命保険の主な種類
法人向け生命保険には、主に以下のような種類が存在します。
- 定期保険…長期平準定期保険、逓増(ていぞう)定期保険、生活障害保障定期保険 など
- 終身保険…定額終身保険、変額終身保険、外貨建て終身保険 など
- 養老保険…無配当と配当タイプ、ハーフタックスプラン など
定期保険
定期保険は、定められた期間の保障が受けられる保険です。対象期間内に被保険者が死亡または高度障害などになった際、保険金が支払われます。
また、定期保険は対象期間中のみ保障を受けられるのが特徴です。期間中に対象となる事由が発生した場合に限り保険金の支払いが生じ、満期後に発生した事由に関しては保障を受けられません。定期保険には、以下のような種類があります。
長期平準定期保険
長期平準定期保険は、保険期間中の保険金額が変動しないタイプの定期保険です。「平準定期保険」よりも保険期間が長く、95~100歳までのように長期にわたって加入できる商品もあります。
また長期平準定期保険は、解約返戻金がピークになるまで時間を要するのが特徴です。保険期間開始から20~30年でピークを迎えるものが多く、満期になると解約返戻金はゼロになります。
編集部
逓増(ていぞう)定期保険
逓増定期保険とは、保険金額が保険期間の経過とともに増加していく定期保険です。増加する割合のことを「逓増率」といい、基本的な保険金額の5倍まで増加します。
逓増定期保険は保険金が増加していくものの、保険料は一定額です。
また逓増定期保険は、解約返戻金がピークになるまでの期間が早いことも特徴です。一般的に5~10年ほどでピークとなるため、経営者や役員の引退が近いときに活用しやすいといえます。
生活障害保障定期保険
生活障害保障定期保険は死亡または、生活に支障をきたすような状態になった際に保障が受けられる保険です。保障内容は保険商品によって異なりますが、一般的には以下のような事由が保険の支払条件となります。
主な保険の支払条件
- 死亡
- 高度障害状態になった
- 要介護状態となり回復が見込めない
- がん・心筋梗塞・脳卒中などにより日常生活に支障をきたしている
生活障害保障定期保険は、ひとつの保険で幅広いリスクに備えられるのがメリットです。解約返戻金も受け取れるため、経営者の退職金や事業資金などにも活用できます。
終身保険
終身保険は、被保険者が死亡した際に保険金が支払われる保険です。支払条件が死亡のみに限られる点が養老保険と異なり、被保険者は個人に限られます。
編集部
ただし被保険者は保険金を受け取れないため、事業資金や経営者の家族への保障を目的に活用されています。
以下で終身保険の代表的な種類をみていきましょう。
定額終身保険
定額終身保険は、固定利率で運用される終身保険です。保障額は契約時の固定利率にもとづいて決定され、保険期間中に保険料と保障額が変わることはありません。
一生涯変動することがないため、内容を把握しやすいのがメリットです。
注意点
ただし金利が低い時期に契約すると保障額が少なくなるので、契約のタイミングを見極める必要があります。
変額終身保険
変額終身保険は保険料の運用結果に応じて、保険金や解約返戻金の金額が変動する終身保険です。この保険では支払われた保険料を保険会社に投資運用し、成果に応じて保険金や解約返戻金が決まります。
運用結果が良ければ保険金や解約返戻金も増えますが、うまく運用できていない場合には、解約返戻金の元本割れが発生する可能性もあるため注意が必要です。
外貨建て終身保険
外貨建て終身保険は、支払った保険料を外貨運用するタイプの終身保険です。変額終身保険と同じく、運用結果に応じて保険金や解約返戻金の金額が決まります。
外貨建て終身保険は、保険料の支払い・保険金の支払い・解約返戻金の支払いを外貨で行うのが特徴です。
注意点
円建てタイプよりも大きな成果を期待できる可能性がありますが、為替の動向によっては解約返戻金が元本割れする場合もあります。
養老保険
養老保険は、死亡保障と貯蓄がセットになった保険です。以下にあるいずれかの要件に該当した場合、保険金が支払われます。
- 被保険者が死亡
- 保険期間の満期
保険期間の満期前に被保険者が死亡した場合、その時点で保険金を受け取ることが可能です。養老保険を利用する際は、以下の内容を理解しておきましょう。
無配当と配当タイプ
養老保険はほかの生命保険と比べ、配当金や解約返戻率が高めに設定されている傾向です。しかし養老保険には無配当タイプと配当タイプがあるため、事前にきちんと確認しておく必要があります。
なお、設計書に記載されている配当金はあくまでも目安となるものです。必ずしも記載された金額を受け取れるわけではないため、過信しないようにしましょう。
ハーフタックスプラン
養老保険は、2019年に実施された税制改正の対象外です。保険金の1/2を損金算入できるものは「ハーフタックス」と呼ばれ、節税効果があるとして注目されています。
ハーフタックスは税制改正前によく活用されていましたが、現在では限られた保険でしか使えなくなりました。養老保険は、ハーフタックスが活用できる数少ない保険商品です。
養老保険の種類
養老保険には、以下のような種類があります。
引受基準緩和型養老保険 | 保険料は高めだが、既往症があっても加入できるタイプ |
---|---|
外貨建て養老保険 | 保険料を外貨で運用し、成果によって保険金や解約返戻金が決まるタイプ |
更新型養老保険 | 健康状態に関係なく、定められた年齢まで更新が可能なタイプ |
それぞれにメリット・デメリットがあるため、内容をしっかりと理解して目的に合ったものを選びましょう。
法人向け生命保険を選ぶときのポイント
法人向け生命保険は、保障内容が保険商品ごとに異なります。保険商品選びでは、以下のポイントをおさえておきましょう。
保険商品選びのポイント
- 自社の目的や課題に適しているか
- 保障内容と保険料のバランスは良いか
- サポート体制は充実しているか
法人向け生命保険は、自社の目的や課題に適したものを選びましょう。たとえば自社の課題が人手不足であれば、福利厚生を充実させるのも有効策のひとつです。
編集部
また、生命保険を利用するときは長期的な視点で考えることが大切です。生命保険は保険期間が長くなる傾向にあり、継続的な保険料の支払いが生じます。
事業は能動的に変化するため、現在の経営状態が今後も続くとは限りません。
なお、保険商品選びではサポート体制もチェックしておきたいポイントであり、保険会社によっては商品に応じたサポートを提供している場合があります。
先述と同じく福利厚生を目的とする場合は、健康経営支援やセミナーなどを提供している商品を選びましょう。
節税以外のメリットを理解して法人向け生命保険を有効活用しよう
節税効果があまり見込めないものの、法人向け生命保険には福利厚生の充実や経営者の保障など、さまざまなメリットがあります。
事業を展開するうえで企業はさまざまなリスクを抱えており、突発的にまとまった資金が必要になることも少なくありません。法人向け生命保険に加入しておけば、万が一の事態に備えられ、企業の負担を減らせます。
編集部