企業を取り巻くリスクへの備えとして有効な法人保険。想定されるリスクに応じた保険に加入することで、万が一のことが発生した際の損害を抑えられます。
しかしながら法人保険は種類が豊富で、内容や補償範囲なども商品によってさまざま。以下のような疑問をお持ちの方もいるでしょう。
- どんな種類があるの?
- 加入するメリット・デメリットは?
- ほかの企業はどんな目的で加入している?
本記事では法人保険の種類やメリット・デメリット、企業が加入する主な目的などについて解説。本記事を読むことで法人保険への理解が深まり、自社に適した保険を見つけやすくなるでしょう。
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目次
法人保険とは契約者が法人となる保険
法人保険とは、契約者が法人となる保険商品です。主には経営者・役員の保障をはじめ、事業を安定させるための資金や福利厚生の充実を目的として活用されます。
契約者 |
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被保険者 |
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受取人 |
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企業は事業を展開するにあたり、経営破たんや業務上の事故など、さまざまなリスクを抱えています。万が一リスクが発生した際、損害を最小限にとどめるのに役立つのが法人保険です。
リスクに応じた保険に加入しておけば、有事に備えることができます。
法人保険の種類
法人保険は、個人保険のようにさまざまな種類があります。まずはどのような保険があるのかみていきましょう。
法人保険の種類
- 生命保険…(養老保険・終身保険・定期保険など)
- 損害保険…(火災保険・労災保険・個人情報漏洩保険など)
- 医療保険をはじめとするその他の保険…(医療・がん・介護など)
生命保険
生命保険は、人間の生死に関する保険です。被保険者の死亡または、保険期間が満期を迎えたときに保険料が支払われます。
法人向けの生命保険には、以下のような種類があります。
保険の種類 | 特徴 |
---|---|
養老保険 | ・死亡保障と貯蓄がセットになっているのが一般的
・被保険者の死亡またな、設定した保険期間が満期を迎えたときに保険料の支払い |
終身保険 | ・基本的には被保険者が死亡したときのみに保険料の支払らわれる |
定期保険 | ・契約時に設定した期間内に被保険者に定められた事由(死亡・高度障害など)が生じた際に保険料が支払われる |
以下でそれぞれ詳しくみていきましょう。
養老保険
養老保険は、死亡保障と貯蓄がセットで提供されている保険です。以下にあるいずれかの要件を満たしたときに、保険金が支払われます。
【保険金が支払われる要件】
- 被保険者の死亡
- 設定した保険期間が満期を迎える
設定した保険期間が満期を迎える前に被保険者が死亡した場合、その時点で保険金が支払われるのが一般的。
編集部
終身保険
終身保険は、被保険者が死亡したときに保険料が支払われる保険です。養老保険との違いとして「支払要件が被保険者の死亡のみに限られる」という点があります。
終身保険は被保険者の死亡が支払要件となるため、被保険者は個人に限られるのが特徴です。加入期間で保険金額が変動することはなく、契約から間もない時点で被保険者が死亡しても満額の保険金を受け取れます。
注意点
ただし被保険者は支払要件を満たした時点で死亡しているため、保険金の受け取りはできません。
保険金は契約時に設定した保険金受取人に対して支払われます。
定期保険
定期保険は、あらかじめ定められた期間を保障する保険です。保障内容は保険によって異なりますが、対象期間内に被保険者が死亡したり、高度障害を患った際に保険金が支払われます。
定期保険は定められた期間内に、対象となる事由が発生した際にのみ保険金の支払いが生じる仕組み。満期を迎えた時点で対象となる事由が発生していなければ、保険金の支払いはありません。
編集部
損害保険
損害保険は、被保険者に生じた損害を補償するための保険です。法人保険には、以下のような種類があります。
損害保険の種類
- 火災保険
- 労災保険
- 個人情報漏洩保険
損害保険に加入しておけば、自然災害や労働災害に備えられます。
火災保険
火災保険は、災害による損害を補償するための保険です。補償内容は保険によって異なり、落雷・水災・盗難のように広範囲をカバーしている保険商品もあります。
保険の対象となるのは、法人が所有する建物・設備・商品などです。保険やプランによっては建物や設備の修繕にかかった費用、災害により事業が一時的に停止するときの休業補償が受けられます。
労災保険
労災保険は、業務中に発生した事故や労働災害に関する保険です。企業が雇用する労働者が被保険者となり、業務中や通勤中に発生した事故や災害によって、被保険者が被害を被った際に保険金が支払われます。
そもそも企業には、公的な保険制度「労働者災害補償保険」の加入が義務付けられています。しかしながら実際には労働災害や事故で被った損害が発生した際、公的保険のみでカバーするのが難しいケースも少なくありません。
個人情報漏洩保険
個人情報漏洩保険は、個人情報の漏洩が発生した際の損害を補償するための保険です。問題の解決にかかった費用や損害賠償に関する費用に対して、保険金の支払いがおこなわれます。
近年では情報のデジタル化に伴い、サイバー攻撃や管理不足による情報漏洩が問題視されている状況です。情報漏洩が発生すると問題の解決や損害賠償など、さまざまなコストが発生します。
医療保険をはじめとするその他の保険
法人保険は2019年の税制改正により、新たに「第三分野保険」と呼ばれる区分が加えられました。第三分野保険には医療保険・がん保険・介護保険など、生命保険や損害保険以外のものが該当します。
医療保険
医療保険は、被保険者が受けた医療行為を保障するための保険です。法人保険では契約者が法人、被保険者が経営者や従業員などの個人となります。
編集部
法人向けの医療保険は、大きく分けて「終身タイプ」と「定期タイプ」の2種類。
終身タイプは保障が一生涯続き、一定額の保険料を支払っていくのに対し、定期タイプは加入期間の定めがあり、更新するたびに保険料が上がっていくのが一般的です。
がん保険
がん保険は、がんになった際の治療費を保障するための保険です。がん保険も法人向け商品が提供されており、医療保険と同様に契約者が法人、被保険者は経営者や従業員などの個人となります。
編集部
日本では確率的に2人に1人が生涯でがんに罹患するといわれており、仕事をしながら闘病する方も少なくありません。企業には、従業員ががんと闘いながら業務にあたれる環境づくりが求められています。
介護保険
介護保険は、被保険者に介護の必要性が認められたとき(要介護)に保障が受けられる保険です。介護保険には、公的保険制度とそれに上乗せする形で加入する民間保険があります。
民間の介護保険(法人保険)も要介護の等級が支給要件となるのが一般的。保険ごとに定められた等級に認定されると、介護一時金が支払われます。
編集部
保険金の用途が制限されない保険もあり、経営者が要介護状態になったことで発生するリスクに備えることができます。
法人保険に加入するメリット
法人保険に加入すると、以下のようなメリットがあります。
法人保険に加入するメリット
- 万が一のときに備えられる
- 事業承継や相続を円滑に進めやすくなる
- 従業員への福利厚生を手厚くできる
万が一のときに備えられる
事業を展開するうえでは、想定外の事由が発生するものです。
- 自然災害による被害
- 感染症拡大のリスク
- 個人情報漏えいをはじめとする法的リスク
- 職場での事故や労働災害
上記のような事由が発生した場合、企業は対応を迫られますが、損害の規模に応じてコスト面での負担も大きくなります。
しかし保険を活用していないと、発生したコストを自己資金や金融機関からの融資で捻出しなければなりません。資金繰りがうまくいかない場合には、経営破綻の可能性もでてきます。
- 法人保険は、このような事業を取り巻くリスクに備えるのに有効。
- あらかじめ加入しておけば万が一の事由が発生しても、負担を軽減できる。
事業承継や相続を円滑に進めやすくなる
事業承継や相続で発生する費用を保険金で賄えるのも、企業が法人保険に加入するメリットです。保険金はキャッシュで受け取れるため、後継者にかかる納税や支払いの負担を軽減できます。
中小企業では、傾向として親族が後継者になることが多いです。しかし事業承継や相続により後継者が経営者の資産や株式を引き継ぐ場合、相続税をはじめとする税金が発生します。相続したものが現物であっても、税金は現金で納めなければならなりません。
後継者の負担を減らせるため、事業承継や相続をスムーズに実施できるでしょう。
従業員への福利厚生を手厚くできる
従業員への福利厚生を手厚くできるのも、法人保険を活用する利点です。医療保険やがん保険などで福利厚生をより充実させれば、従業員が安心して働くことができます。
編集部
また、福利厚生の充実は企業のイメージアップにも有効です。求職者や従業員のなかには、福利厚生を重視する方もいます。充実した福利厚生を提供できれば、人材確保や従業員の定着率向上が図れるでしょう。
なお、要件を満たした福利厚生は費用を損金として計上できるため、節税につながる可能性があります。
法人保険に加入するデメリット
法人保険への加入にはさまざまなメリットがありますが、活用の仕方によって以下のようなデメリットが発生します。
法人保険に加入するデメリット
- 保険料の支払いがキャッシュフローを悪化させる恐れがある
- 解約のタイミング次第では解約返戻金が少なくなる
保険料の支払いがキャッシュフローを悪化させる恐れがある
法人保険を活用するときは、支払いの負担によるキャッシュフローの悪化に注意しましょう。保険はのちほど保険金を受け取れるとはいえ、加入すれば一時的に資金が減ることになります。
資金にゆとりがないにもかかわらず保険を充実させすぎると、保険料の支払いが多くなり、事業に必要な資金が不足する恐れがあります。
特に更新ごとに保険料が上がるタイプの保険は、気づかぬうちにキャッシュフローを圧迫するケースも考えられます。
適切なキャッシュフローを維持するためにも自社に適した保険を選ぶとともに、加入後はこまめに見直しましょう。
解約のタイミング次第では解約返戻金が少なくなる
法人保険に加入するときは、解約のタイミングに注意が必要です。
貯蓄型の保険は解約返戻金の受け取りが可能なものの、受け取れる金額は解約時期によって変動し、一般的には加入期間が長いほど金額が高くなります。
注意点
- 定期保険や逓増定期保険(※1)には、保険期間の途中から反対に金額が減少していくものも存在する。
- 内容を把握しておかないと解約返戻金が少なくなる、もしくは受け取れない場合があるため注意が必要。
解約返戻金に関する規定は保険によって異なるので、契約前に内容をきちんと理解しておくことが大切です。
(※1) 逓増定期保険…保険料は変わらないまま、保険金額が増えていく保険
企業が法人保険に加入する主な目的
企業が法人保険に加入することには、以下のような目的が挙げられます。
企業が法人保険に加入する主な目的
- 事業承継や相続に備えるため
- 売上減少をはじめとする事業継続リスクを軽減するため
- 従業員とその家族の生活安定や保障をするため
- 経営者・役員に関する保障やリスクに備えるため
事業承継や相続に備えるため
法人保険は、事業承継や相続への備えとしてよく活用されます。先述したように相続税や贈与税は、現金で支払わなければなりません。
加えて税金の申告と納付には期限が定められており、相続税の場合だと相続に該当する事由(被相続人の死亡)を知ってから10カ月以内です(※1)。
編集部
しかしすべての後継者が資金を準備できるとは限らず、期限までの申告と納税が難しいこともあるでしょう。とくに相続税の金額が大きい場合には、資金を用意するのも大変です。
法人向け生命保険で先代経営者を被保険者としておけば、死亡した際に支払われる死亡退職金を納税用の資金にあてられます。
参照:(※1)国税庁|財産を相続したとき
売上減少をはじめとする事業継続リスクを軽減するため
法人の経営活動においてはさまざまなリスクが存在しており、安定して事業を継続するにはそれなりの資金力が必要です。
経営活動で発生するリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。
経営活動で発生する主なリスク
- 市場の変化による売上減少のリスク
- 設備投資の費用対効果に関するリスク
- 人手不足による生産性低下のリスク
- 投資や融資の失敗による資金不足のリスク
事業によっては国の補助金制度を活用できますが、条件が定められているため必ずしも利用できるとは限りません。
契約者と受取人を法人、被保険者を経営者にしておけば受け取った保険金を事業資金として活用することもできます。
従業員とその家族の生活安定や保障をするため
企業によっては従業員とその家族の生活安定や保障を目的に、法人保険へ加入しているケースもあります。後期高齢化が進む日本では労働人口の減少が見込まれており、現時点においても企業での人手不足が深刻な状況です。
優秀な人材を確保するには他社との差別化が必要となり、福利厚生をはじめとする従業員への待遇をセールスポイントにしている企業もあります。
編集部
なお、火災保険には災害発生による休業中の人件費を補償する特約が付帯しているものもあります。法人保険をうまく活用すれば、自社の信用性アップにもつながるでしょう。
経営者・役員に関する保障やリスクに備えるため
法人保険は、経営陣に関する保障やリスクへの備えとしてもよく活用されています。中小企業の場合、経営者が多大な影響力を有するケースも少なくありません。
経営者が死亡または引退したときには、以下のような事由の発生が考えられます。
経営者の死亡または引退に伴い想定できる事由
- 取引先や金融機関から取引条件を変更される
- 連帯保証債務が相続分によって会社と関係ない相続人にも承継される
- 相続人から経営者貸付を請求される
上記はいずれも企業やその関係者に大きな影響を与える事由です。被保険者を経営者とした保険に加入しておけば、保険金で借入の返済や資金の確保ができるため、影響を抑えられる可能性があります。
なお、経営者は従業員でないため労災保険は適用されません。法人向け労災保険や医療保険は、経営者の労働災害の保障として活用できます。
編集部
法人保険を活用する際のポイント
法人保険を上手く活用するためには、以下のポイントをおさえておきましょう。
法人保険を活用する際のポイント
- 自社に適した商品やプランを選ぶ
- 節税効果にはあまり期待できない
- 会計処理に不安があるときは税理士への相談がおすすめ
自社に適した商品やプランを選ぶ
法人保険をより有効的に活用するには、自社に適した商品やプランを選ぶことが大切。法人保険の内容・補償範囲・保険金額・掛金などは、商品やプランによってさまざまです。
そのため、自社に適していない保険を選んでしまうと、いざというときに有効活用できません。
たとえば年齢が若い経営者が退職金を確保したいのであれば、長期平準定期保険がおすすめ。解約返戻金の返金率のピークが遅いため、長期的な運用に向いています。
編集部
なお、自社に適した商品を探すうえでは、保険加入の目的を明確にしておくことがポイントです。まずは自社が抱える問題点やリスクを洗い出し、優先順位の高い目的を見つけましょう。
節税効果にはあまり期待できない
法人保険は以前、節税対策としても活用されていました。しかし2019年の税制改正により、現在では以前のような節税効果が期待できません。
そもそも法人保険が節税になるといわれていた主な理由は以下の2点です。
法人保険が節税になるといわれていた理由
- 保険料の全額または1/2を経費(損金)として計上でき、課税対象額を抑えられた
- 保険料と解約返戻金が同等の商品があり、支払負担よりも節税効果が高かった
しかし、2019年の税制改正や新しい保険商品の登場により、解約返戻金が高くなるにつれて経費(損金)で計上できる割合が減少。以前のような短期的な節税効果が見込めなくなりました。
節税効果を重視しすぎると、いざというときに有効活用できない可能性があるため、内容をしっかりと検討したうえで自社に合ったものを選びましょう。
会計処理に不安があるときは税理士への相談がおすすめ
法人保険は2019年の税制改正により、以下の3つに区部分けされました。
第一分野保険 | 養老保険や終身保険などの生命保険が該当 |
---|---|
第二分野保険 | 火災保険をはじめとする損害保険が該当 |
第三分野保険 | 医療保険やがん保険など、第一・第二以外の保険が該当 |
法人保険における保険料の会計処理では保険の区分や種類、解約返戻金率などによって計上する科目や割合が異なります。
このように法人保険の会計処理は複雑化しており、適切に処理するにはルールの把握とそれなりの専門知識が必要です。
注意点
- 会計処理は、税金の計算に影響を与えるもの。
- 適切に処理しないと税金の計算まで誤ってしまい、修正や追徴金が課せられる可能性もある。
そのため、自社のみで適切な会計処理が難しい場合には、税理士や会計士などの専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ|法人保険を活用してリスクに備えよう
法人保険は、万が一の備えとして役立つサービスです。企業は法的リスクをはじめ、自然災害や感染症拡大などのさまざまなリスクを抱えています。
このようなリスクを完全に防ぐのは困難ですが、法人保険を活用すると損害を少なくできるので安心です。
ただし法人保険に加入する際は、保険料の負担や解約のタイミングに注意が必要しましょう。また、法人保険を選ぶ際はコストと内容のバランスを考慮し、自社の目的に適したものを選ぶことが大切です。
編集部