企業を取り巻くリスクへの備えとして役立つ法人保険。目的に適した保険商品を選ぶことで、リスクが発生した際に損害を抑えやすくなります。
しかし法人保険は種類が豊富なことから、利用を検討する際に以下のような疑問を抱く方もいるでしょう。
- 法人保険にはどんなメリットがある?
- おすすめの法人保険は?
- 節税になるって本当?
そこで本記事では、主な活用シーンごとにおすすめの法人保険の種類をご紹介。法人保険の概要やメリット・デメリット、利用する際の注意点もあわせて解説します。
編集部
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目次
法人保険とは保険会社が提供する法人向けの保険商品
法人保険は、契約者が法人となる保険です。保険会社が法人向けに提供している保険商品を指しており、節税対策や公的保険を賄う目的でよく利用されています。
【法人保険の仕組み】
契約者 | 法人 |
---|---|
被保険者 | 法人
経営者(役員) 従業員 |
受取人 | 法人
経営者(役員) 従業員(その家族) |
まずは法人保険の基本的な概要からみていきましょう。
「掛け捨てタイプ」と「貯蓄タイプ」の2種類がある
法人保険は、個人向け保険同様「掛け捨てタイプ」と「貯蓄タイプ」の2種類に分けられます。
【タイプ別の特徴】 | |
---|---|
掛け捨てタイプ | 保険料は安めだが解約返戻金がなく、支払要件に該当しないと受け取れるお金はない |
貯蓄タイプ | 保険料は高めだが解約で解約返戻金を受け取れるため、掛金が無駄になりにくい |
法人保険にはさまざまな活用方法があり、節税や経営者の保障を重視する場合は、解約返戻金のある貯蓄タイプがよく活用されています。
解約返戻金は幅広い用途に使用できるため、事業資金や退職金代わりなど事業を展開するうえで有効的に使えます。
法人保険の種類
法人保険は、大きく以下にある3種類に分けられ、内容が大きく異なります。
概要 | 主な保険商品 | |
---|---|---|
生命保険 | 死亡に関する保険。被保険者の死亡や、定められた期間満了で保険料が支払われる。 | 終身保険
養老保険 定期保険 |
損害保険 | 損害に関する保険。建物や事業などで生じた損害に対し、補償が受けられる。 | 火災保険 |
医療保険などの第三分野保険 | 生命保険と損害保険以外の保険。医療や介護などさまざまな保険があり、定められた要件を満たしたときに保険金が支払われる。 | 医療保険
介護保険 |
法人保険には幅広い種類があり、活用方法も企業によってさまざまです。自社の目的や課題に適した商品を選ぶことで、より有効的に活用できるでしょう。
2019年に税制改正がおこなわれた
法人保険は2019年の税制改正により、規定が変更されました。新たな規定が適用されるのは、保険期間3年以上の定期保険と第三分野保険の2種類。
これまでは保険の種類ごとに規定がなされていましたが、最高解約返戻率に着目した規定に変更されました。
最高解約返戻金 | 資産計上期間 | 資産計上額と損金算入額 | 取崩期間 |
---|---|---|---|
50%以下 |
条件なしで全額損金算入が可能 |
||
50~70%以下 | 保険期間が4割経過するまで | 資産計上額:40%
損益算入額:60% |
保険期間75%経過後から保険期間が終了するまで |
70~85%以下 | 保険期間が4割経過するまで | 資産計上額:60%
損益算入額:40% |
保険期間75%経過後から保険期間が終了するまで |
85%超 | 保険期間開始から最高解約返戻率に達する期間まで | 保険期間開始から10年未満
資産計上額:当期分支払保険料×最高解約返戻率×90% 損益算入額:上記の残額 |
解約返戻金が最高額に達したあとから保険期間終了まで |
保険期間開始から10年以上経過
資産計上額:当期分支払保険料×最高解約返戻率×70% 損益算入額:上記の残額 |
新ルールは最高解約返戻率が高くなるにつれ、経費(損金)として計上できる金額が少なくなるのが特徴です。
最高解約返戻率が50~85%以下の保険は、保険期間が4割経過するまで保険料の一部しか経費として計上できなくなりました。
編集部
法人保険おすすめの選び方
法人保険を選ぶときは、以下のポイントをおさえておきましょう。
- 自社の目的に合ったものを選ぶ
- 保障と保険料のバランスをチェック
- サポートが充実しているともしものときに安心
- 複数の候補を比較検討する
自社の目的に合ったものを選ぶ
法人保険をより有効活用するには、自社の目的に合ったものを選ぶことが大切です。
たとえば生命保険は終身保険・定期保険・養老保険に分けられますが、保険の対象範囲や支払い条件が異なります。
編集部
また定期保険は、あらかじめ定められた期間を保障するタイプ。長期平準定期保険や逓増定期保険などの種類があり、経営者の年齢に応じて使い分けるのがおすすめです。
一方で事業を取り巻くリスクに備えるのであれば、損害保険が選択肢となるでしょう。
保障と保険料のバランスをチェック
法人保険は、保障と保険料のバランスを考慮しながら選ぶことをおすすめします。
一般的に法人保険は保障が手厚くなるほど保険料も高くなりますが、内容を重視しすぎると負担が大きくなるので注意が必要です。
編集部
長く払い続けることを想定し、無理のない保険料の商品を選びましょう。
サポートが充実しているともしものときに安心
保険選びでは、サポート体制も確認しておきたいところです。サポート体制は保険商品によって異なるため、自社の目的に応じて選ぶのがポイント。
解約返戻金を事業資金にあてたり、相続対策として活用したいのであれば、経営支援サポートのあるものがおすすめです。
編集部
また、福利厚生の充実を目的とする場合には、健康経営支援のようなサポートを提供している商品を探しましょう。
課題や状況に応じた健康経営計画の立案をはじめ、従業員を対象とした健康セミナーなどのサービスを利用できるため、健康経営を目指す際に有効です。
複数の候補を比較検討する
法人保険はいくつかの候補を挙げ、比較検討したうえで決定するのが理想的です。同じ分類の保険でも保険商品によって若干の違いがあるため、比較することで自社にとってベストなものを見つけやすくなります。
たとえば、近年甚大な災害が頻発することで重要性が増している火災保険の場合、物損しか補償しない商品があれば、休業補償や賠償責任補償特約が付帯した商品もあります。
編集部
保険期間や解約返戻率は会計処理や法人税の計算にも影響を及ぼすので、自社の目的を加味しながら慎重に検討しましょう。
法人保険の主な活用シーンとおすすめの種類
法人保険の種類は多岐にわたるため、目的に応じて活用する保険を検討することが大切です。以下では、活用シーンごとにおすすめの法人保険の種類をご紹介します。
- 倒産をはじめとする事業リスクに備えたい
- 事業の承継や相続を円滑に進めたい
- 生産性向上や企業のイメージアップを図りたい
- 経営者や役員の保障を手厚くしたい
- 自然災害などの予期せぬ出来事への備えを充実させたい
倒産をはじめとする事業リスクに備えたい
【事業リスク対策におすすめの保険例】 |
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事業を展開するうえでは売上減少をはじめ、さまざまなリスクがあります。近年では新型コロナウィルスの感染拡大によって、倒産を余儀なくされる企業もありました。
注意点
- 売上減少時には資金繰りが必要となりますが、経営状態が悪化している場合、金融機関からの融資にはあまり期待できない。
- 資金調達には公的な補助金も選択肢となるものの、制度ごとに定められた条件を満たす必要があり、必ずしも利用できるとは限らない。
安定して事業を展開するには、リスクを想定して早い段階から備えておく必要があります。
法人保険の保険金や解約返戻金は幅広い用途に使用できるため、事業資金の確保に有効です。融資や補助金と併用することで、事業リスクへの備えを充実させられるでしょう。
事業の承継や相続を円滑に進めたい
【事業の承継や相続におすすめの保険例】 |
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事業の承継や相続時には相続税の課税をはじめ、リスクやトラブルが発生しやすいものです。
注意点
- とくに中小企業の場合、経営者が大きな影響力を有しているケースが少なくない。
- 先代の経営者が引退した際、金融機関や取引先から取引条件を変更されたり、経営者の親族から経営者貸付金の返還を請求される場合がある。
また事業承継や相続で株式が譲渡された場合、相続人である後継者は相続税や贈与税を納めなければなりません。納税には期限が定められているため、資金を準備するのも大変です。
しかし、経営者を被保険者とした法人保険に加入しておけば、このような事態に対処しやすくなるでしょう。
生産性向上や企業のイメージアップを図りたい
【生産性向上や企業のイメージアップにおすすめの保険例】 |
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昨今の日本企業は人手不足が課題となっており、人材業界はまれにみる売手市場です。優秀な人材を確保するには他社との差別化を図る必要があり、魅力的なセールスポイントをつくならければなりません。
ワークライフバランスが注目される近年、他社との差別化を図る際に有効なのが福利厚生の充実です。企業に義務付けられている法定福利は最低限の保障であるため、病気やケガの負担をすべて賄えるわけではありません。
また、終身タイプ短期払いの医療保険は名義変更が行えるので、退職金代わりとしても活用することが可能です。
編集部
経営者や役員の保障を手厚くしたい
【経営者や役員の保障におすすめの保険例】 |
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経営者や役員は「雇用する側」であるため、労災保険や雇用保険などへの加入が認められていません。病気・ケガ・失業などに関しては自分で備えておく必要があるため、医療保険は経営者や役員の保障に役立ちます。
また長い老後生活を考えたとき、経営者や役員も退職金を確保しておきたいところです。しかし、退職金を支払うと企業の事業資金が減ってしまうことから、受給をためらう経営者の方もいるでしょう。
保険料は分散して支払っていくので企業の負担を軽減しつつ、それなりの退職金を確保できます。
自然災害などの予期せぬ出来事への備えを充実させたい
【予期せぬ出来事への備えにおすすめの保険例】 |
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日本では自然災害の発生頻度が増しており、毎年のように甚大な被害を及ぼす災害が発生しています。
災害で建物や備品が損害を受けた場合、修理が必要となりコストがかかるうえ、休業せざるを得ない状況のときには、復旧するまでの売上減少も予想されるでしょう。
またネットの普及に伴い、サイバー攻撃や自社の社員による情報漏えいも後を絶ちません。大量の個人情報が漏えいした場合には、多額の損害賠償が請求される可能性があります。
法人保険は、こういった有事の際の補償にも有効です。火災保険や個人情報漏えい保険などに加入しておけば、被害が発生した際に補償を受けられるので損害を抑えられます。
法人保険のメリット
法人保険には、以下のようなメリットが挙げられます。
- もしものときに備えられる
- 事業継続や承継のための資金として活用できる
- 経営者や役員の保障として使える
- 従業員の福利厚生を手厚くできる
もしものときに備えられる
法人保険は、もしものときに備えられるのがメリットです。先述したように企業経営にはさまざまなリスクがあり、トラブルは必ずと言っていいほど発生します。
しかし、突発的な事由は防止が困難なケースも多いため、法人保険を利用していざというときに備えておくと安心です。
編集部
事業継続や承継のための資金として活用できる
法人保険の保険金や解約返戻金はさまざまな用途に活用できるので、事業資金として使うことも可能です。事業を展開するうえでは、状況や市場の変化に伴い資金が必要となる場面も少なくありません。
自然災害だけでなく、事業を拡大するときには先行投資として、まとまった資金が必要になるケースもあります。
経営者や役員の保障として使える
法人保険は、経営者や役員の保障として活用できます。
たとえば退職金を確保したい場合には、長期平準定期保険や逓増定期保険がおすすめです。長期平準定期保険は保険期間が長く、期間中の保険金額が変動しない定期保険。
編集部
一方の逓増定期保険は、保険期間の経過とともに保険金が増えていく定期保険。長期平準定期保険と比べて保険料は高めですが、解約返戻率のピークまでの期間が短いことから引退が近い経営者に向いています。
従業員の福利厚生を手厚くできる
医療保険やがん保険などは、従業員の福利厚生を充実させるのに有効です。福利厚生を手厚くすることで、モチベーションアップによる生産性の向上にも期待できます。
また。生命保険を活用する場合には以下のような活用も可能です。
被保険者:従業員
受取人:法人 |
従業員が死亡した際、保険金を遺族に弔慰金・見舞金として支給する |
---|---|
被保険者:従業員
受取人:従業員の家族 |
従業員が死亡した際、遺族が直接保険金を受け取れる |
人材不足が続く現状においては、法定外福利を充実させて人材確保を図る企業も増えています。法人保険をうまく活用して、魅力的な福利厚生を提供しましょう。
法人保険のデメリット
法人保険を活用するときは、以下のようなデメリットに注意が必要です。
- 保険料支払いの負担がある
- 解約返戻金が保険料よりも少なくなる場合がある
保険料支払いの負担がある
法人保険を利用する際は、保険料支払いの負担に注意が必要です。充実させすぎると保険料が高くなり、キャッシュフローの悪化を招く恐れがあります。
保険は、あくまでも有事のときの備えとして活用すべきサービスです。保険料の負担によって資金力が低下してしまうと、事業にマイナスな影響を与える可能性があります。
解約返戻金が保険料よりも少なくなる場合がある
解約返戻金のある法人保険を利用するときは、解約のタイミングに注意しましょう。解約のタイミングによっては、解約返戻金が極端に少なくなる場合があります。
解約返戻金のある法人保険の場合、解約返戻率のピークが設定されているのが一般的です。保険期間の開始から徐々に返戻率が上昇していき、ピークに到達したら徐々に下がっていきます。
注意点
保険加入直後や満期付近に解約すると、わずかな解約返戻金しか受け取れないことがあるため注意が必要です。
解約返戻金に関する規定は保険商品によって大きく異なるため、契約前にしっかりとチェックしておきましょう。
法人保険を活用するときの注意点
法人保険を活用するときは以下のポイントに注意が必要です。
- 2019年の税制改正によって節税効果が少なくなった
- 会計処理には法律への理解と知識が必要
- 保険会社直営店と代理店で自分に合った方を選ぶ
2019年の税制改正によって節税効果が少なくなった
法人保険は税制改正により、節税効果が少なくなりました。節税効果が少なくなった主な理由は以下の2つです。
法人保険での節税効果が少なくなった理由
- 特定の保険商品は損金の計上ルールが制限された
- 税制改正を受けて保険業界では節税効果が高い保険商品が少なくなった
節税効果が全く得られないわけではありませんが、節税を目的とする場合はあらかじめ理解しておく必要があります。
会計処理には法律への理解と知識が必要
法人保険は税制改正によって、会計処理がやや複雑になりました。対象となる商品を利用するときは、最高解約返戻率と保険期間に基づき適切に計上しなければなりません。
なお、法人保険は仕組みや会計処理が複雑なことから、ファイナンシャルプランナーや会計士などの専門家に相談しながら利用するのもおすすめです。
保険会社直営店と代理店で自社に合った方を選ぶ
法人保険に加入する際は保険会社直営店か代理店のいずれかを利用しますが、自社に合った方を選ぶことが大事です。
保険会社直営店は、自社商品のみを取り扱うため専門性が高いのが特徴です。担当者は商品の特徴をしっかりと把握しており、専門性の高いアドバイスが受けられるでしょう。
編集部
一方で代理店は幅広い会社の保険商品を扱っており、バリエーションが豊富です。そのため保険を比較検討しやすく、柔軟に組み合わせられます。
ただ、幅広い保険商品を扱っていることから担当者の商品への理解が浅く、より良い提案を受けられない可能性があります。
まとめ|活用シーンごとのおすすめ法人保険を有効活用しよう
本記事では法人保険における活用シーンごとのおすすめの種類、メリット・デメリットなどについて紹介しました。法人保険は、もしものときの備えとして役立つサービスです。
事業資金をはじめ、福利厚生や役員の保障などさまざまなシーンで活用できます。ただ、法人保険は種類によって内容や保障が大きく異なるため、自社の目的に合ったものを選ぶことが大切です。
編集部