保険を契約するときは「契約者」と「被保険者」のほかに、誰が保険金を受け取る権利を持つか「受取人」を設定する必要があります。
現在の医療保険では基本的に被保険者=受取人のため、ケガや病気の程度によっては自分で給付金を申請できない場合も考えられます。
そんなとき、受取人以外の人が給付金を申請することはできるのでしょうか?
この記事の要点
- 被保険者=受取人の場合、ケガや病気で重症になった場合、給付金の申請ができない可能性があります。そのため、医療保険に加入する際は、受取人と一緒に「指定代理請求人」の設定を検討しましょう。
- もしも受取人が給付金を受け取る前に亡くなった場合、その給付金は相続の対象となり、税金の支払いが必要になることがあります。
- 税金のルールは複雑ですが、事前に把握しておくことが大切です。給付後の税金も考慮して、受取人を決めましょう。
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医療保険の受取人とは
医療保険の契約においては、以下の3者が関わり合うことになります。
医療保険契約の3者の役割
- 契約者:保険会社と契約を結ぶ人
- 被保険者:保険の対象となる人
- 受取人:給付金や保険金を受け取る人
医療保険において、入院や通院などの給付金は被保険者本人が受け取ります。死亡保険金については、配偶者や子どもが受取人となることが一般的です。
契約の仕方によって税金の種類や金額が異なるため、給付金の受け取り方については税金の影響も考慮に入れて決めていくことが大切です。
受取人の確認方法
保険契約が長期間続くと、受取人が誰だったかを忘れてしまいそうですよね。しかし、通常受取人の情報は保険証券や毎年送られてくる「現在のご契約内容のお知らせ」に記載されています。
外出先で受取人を確認したい場合は、ネットで契約した医療保険であれば、公式ウェブサイトの会員ページにログインすることで確認が可能です。
保険会社によって確認方法は変わりますが、基本的には以下の流れで確認できます。
受取人の確認方法(公式webサイト例)
- 利用者の会員ページにログイン
- 「契約内容の照会」をクリック
- 契約内容の「受取人」欄を確認する
ケガや病気になった際に手続きで困らないよう、受取人の確認方法も日頃から理解しておくようにしましょう。
医療保険の受取人は本人以外でも指定可能?
医療保険には受取人の設定が必要であることが分かりましたが、誰でも受取人になれるのでしょうか?例えば、血縁関係がないパートナーや友人を受取人に指定できるのか気になる方もいるでしょう。
ここでは、「医療保険の受取人は本人以外でも指定できるのか?」という点を含め、受取人に関するルールを詳しく解説します。
医療保険の給付金の受取人は「被保険者」
現行の医療保険では、入院給付金・手術給付金の受取人はほとんどの場合で「被保険者」です。
医療保険の被保険者になれるのは、以下のような人です。
医療保険の被保険者になれる人
- 契約者本人
- 配偶者と2親等以内の血族
契約者以外を被保険者にするとメリットもデメリットもある
被保険者を契約者以外にすることでメリットもありますが、それだけではありません。デメリットもきちんと把握しておきましょう。
メリット
受取人と被保険者が同一であるメリットは、入院・通院した時点ですぐに給付金を請求できる点です。
治療を受ける本人(被保険者)が受取人であればすぐに動き出すことができ、給付金請求に必要な書類も用意しやすいでしょう。
デメリット
被保険者である人が受取人の場合は、ケガや病気の程度次第では自分で手続きを行うことができないことが考えられます。
編集部
受取人以外でも給付金を請求できる人もいる
医療保険の入院給付金、通院給付金は基本的には受取人しか請求できません。
しかし被保険者と受取人が同じということは、病気やケガの状態次第で受取人が給付金を請求できないことを意味しています。
ポイント
指定代理請求人は、被保険者が受取人となる保険金と給付金について本人が請求を行う意思表示ができない事情があるときに、本人の代わりに給付金等を請求できます。
保険会社によって条件は変わりますが、代理請求ができる主なシチュエーションは、以下のような場合です。
- 被保険者のケガや病気の状態が重く、請求する意思を示せない場合
- 被保険者ががんなどの病気によって、病名や余命を告知されていない場合
指定代理請求人以外でも受け取れるケース
指定代理請求人が指定されていない、指定代理請求人がすでに亡くなっている場合は指定代理請求人以外の人が代理人として請求することも可能です。
注意点
ただし、代理請求人になれる人の範囲は保険会社によって制限されており、一般的に「被保険者と同居または生計を一にしている被保険者の戸籍上の配偶者」若しくは「3親等内の親族」または保険会社が代理請求人として適格と認めた方とされています。
医療保険の保険金受け取りにまつわる税金について
保険を利用して保険金や給付金(一時金)を受け取る場合、意外と見落としがちになるのが税金の関係です。
編集部
ここでは、医療保険と税金の関係について解説します。
医療保険の給付金は非課税
医療保険の給付金に関して、被保険者本人や配偶者、直系血族のほか、被保険者と生計をともにする親族であれば受け取っても税金を支払う必要はありません。
非課税になる対象は、以下のような給付です。
非課税対象になる給付
- 入院給付金
- 手術給付金
- 通院給付金
- 三大疾病給付金
- がん診断給付金(がん保険の場合)
これは所得税法施行令30条において、受取人が被保険者かその配偶者、その直系血族や生計を一にする親族が不慮の事故や疾病により受け取る給付金について非課税と決められているためです。
給付金が課税されるケースとは
医療保険の給付金が課税されるのは、受取人以外の人が受け取った場合です。
ポイント
- 病気で亡くなったとしても、それまで病院で入院していたのなら亡くなるまでの日数分の入院給付金を受け取れます。
- 手術や通院をしていた場合も同様です。
- 医療保険の入院給付金や手術給付金の請求は本人が行うのが原則ですが、死亡していれば本人は請求できません。
- 医療保険の入院給付金・手術給付金があったにもかかわらず受取人が亡くなると、遺族に受け取る権利が相続されます。
こうなると財産として「相続税」の課税対象になります。
注意点
受取人の死亡後に遺族が受け取った入院給付金等は相続財産になるため、遺言が特に残されていない場合は相続時に遺産分割協議をして財産を分配することになります。
死亡保険金は受取人によって税金が変わる
医療保険の死亡保険金で課税される区分、金額は「契約者」「被保険者」「死亡保険金受取人」の組み合わせによって異なります。
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 課税区分 | |
契約者=被保険者 | 夫 | 夫 | 妻や子 | 相続税 |
---|---|---|---|---|
契約者=受取人 | 夫 | 妻 | 夫 | 所得税 |
全て異なる | 夫 | 妻 | 子 | 贈与税 |
契約者と被保険者が同じ場合
契約者、被保険者、受取人がA・A・Bの関係、つまり契約者と被保険者が同じ人物で受取人が別の人の場合、死亡保険金は相続財産扱いになります。
相続として受け取る人が法定相続人の場合は「非課税枠」によって相続税負担が安く抑えられるようになっており、非課税枠の計算式は以下のとおりです。
死亡保険金の受取人が配偶者と子どもの2人の場合、1,000万円までの死亡保険金が非課税になります。
編集部
契約者と受取人が同じ場合
契約者、被保険者、受取人がA・B・Aの関係、つまり契約者と受取人が同じ場合は「一時所得」として所得税・住民税の課税対象になります。
このことから、受け取った死亡保険金とこれまでに支払った保険料の差が50万円以下である場合は非課税で、税金を支払う必要はありません。
編集部
契約者、被保険者、受取人の全てが異なる場合
契約者、被保険者、受取人のA・B・Cの関係で3者全員が異なるケースでは、Cが受け取る死亡保険金は贈与の扱いになります。
注意点
- 贈与では年間110万円の基礎控除がありますが、それを超えた分に課税されます。
- この贈与税の区分では一時所得とは違って支払った保険料の金額がマイナスされることがないため、税負担は相続税や所得税と比較して最も重くなる可能性が高いのが特徴です。
医療保険の受取人は途中で変更できる?
医療保険の受取人を自分で選べるタイプの保険であれば、医療保険の受取人や指定代理請求人に関して(被保険者の同意があれば)契約途中でも変更が可能です。
注意点
- ただし、入院給付金・手術給付金の受取人が「被保険者」と指定されているケースでは受取人の変更はできません。
- 被保険者は途中で変更できないためです。
受取人が死亡した場合は法定相続人が受取人になる
被保険者より先に生命保険の受取人が死亡した場合、保険会社に連絡して受取人の変更手続きが必要です。
ポイント
- 受取人変更の手続きをしていなかった場合は被保険者の法定相続人ではなく、受取人の法定相続人が受取人の地位を引き継ぐことになります。
- 夫が契約者と被保険者、妻が受取人の場合、妻が夫より先に亡くなったときは子どもが受取人になります。
- 子どもがいない場合は妻の両親、両親もすでに亡くなっているときは妻の兄弟姉妹が受け取ることになるのが原則の順番です。
保険金・給付金の種類によって変更可能かが異なる
給付金受取人の変更
最近の医療保険では給付金の受取人が原則として被保険者と決められています。
注意点
- この場合、契約後に変更することができません。
- 被保険者は変更できないので、被保険者と同一人物であることを定められた受取人も変更できないためです。
- 被保険者が請求できない事態を想定した指定代理請求人の指定が必要になるでしょう。
編集部
死亡保険金受取人の変更
死亡保険金の場合、被保険者の同意があればいつでも変更できます。
注意点
- 医療保険の死亡保険金は少額であることが多いためあまり税金の心配はありませんが、それでも贈与税の形態の場合は相続税や所得税と比較して税負担が重くなりやすいことは知っておきましょう。
- 税負担まで考慮してもっとも税負担が軽い相続税の形にしておくなど、税制面も考えてから受取人を変更することが必要です。
まとめ
現在の医療保険では、ほとんどの場合で被保険者=受取人です。そのため、ケガや病気で重症のために給付金の申請ができないことが考えられます。
そうならないためにも、医療保険に加入する際は受取人と一緒に「指定代理請求人」の設定を検討しましょう。
また、受取人が給付金を受け取る前に亡くなった場合は相続の対象になるため、税金の問題が発生します。
税金の問題は複雑ですが、受け取る人によっては多額の相続税、所得税、贈与税などの支払いが必要になるため注意が必要です。
受取後の税金まで考えたうえで、受取人を決めておきましょう。
大学卒業後、信用金庫に入社。中立的な立場でお客様目線の営業をしたいという思いから、保険代理店として独立を決意。
保険会社の代理店営業職、保険会社の研修生を経て2020年9月に保険代理店『コミヤ保険サービス』を設立。
保険代理店の実務経験を生かして、執筆業や講師業も行う。
人材派遣会社17年経営したのち、保険代理店に転身後16年従事、2級FP技能士・トータルライフコンサルタント・MDRT成績資格会員2度取得。
ファイナンシャルプランナーとしてライフプランニングや家計診断を通して老後資金の対策、節約術などを提案。
また自らのがん闘病経験をふまえた生きる応援・備えるべき保障の大切さをお伝えしています。
岩手県出身。大学卒業後、銀行、外資系生命保険会社、建設業(企業再生)を経て、ほけんのぜんぶに入社。
保険業界経験歴は18年。岩手県生命保険協会副会長も務める。